2019.08.30

お客様が病気!さあどうする?

ツアーが始まる前私たちガイドは、このツアーが平穏無事に終わることを祈ります。ただ、なかなかそうは問屋が卸してくれないのも、事実です。
軽重の差こそあれ、毎回何かしらアクシデントやトラブルが発生します。
そのような異常事態を乗り切るのが、我々ガイドの真骨頂ですが、一方それは同行するドライバーさん、バックアップしてくれているエージェントのスタッフ、更には出先のホテル・レストラン・観光スポット等のスタッフの助けなしには、できません。

よく「ガイドは個人事業主。誰の助けも借りられない」と考えがちですが、決してそうではありません。
お客様のツアーという、いわば「お神輿」の担ぎ手の一員として、ガイドは他のスタッフとともにあることを肝に銘じ、相互に良好なコミュニケーションを保つ必要があります。

さて、米国ロサンゼルスにお住いの日系人M子さんが営む小さな旅行会社C社は、毎年春秋定期的に、10名前後のお客様を北海道に送ってきます。
ところで、M子さんのツアーのコンセプトは
・1訪問地最低2泊以上滞在のゆったりした日程
・ツアー中1日1回感動があれば良い
・訪問したその土地と、そこに住む人々との心温まるふれあい
・毎日短くてもよいから自分で単独行動する
というものです。

そんな事情もあって、同社のツアーの場合お客様の年齢層は高く、私が担当した数回のツアーを通して、最高年齢80歳、最低67歳、平均年齢70歳というものでした。
ですから、勢いお客様には無理のない日程でツアーを楽しんでいただくこと、そして健康管理が重点課題になります。

さて、2019年6月のツアーの幕開けは、その後の波乱を予想させるものでした。
お客様札幌集合の前々日、メンバーの一人から突然メールが舞い込みました。
「東京到着直後に、パートナーが胆石で緊急入院し、ICUにいる。ツアーには参加できない」というものです。
病院で10日間療養後その方は快方に向かい、結局他のメンバーとともに帰米しました。ご本人にとってみれば、楽しみにしていた北海道旅行がふいになり、さぞ残念なことだったろうと思いやる反面、もしこれがツアー開始後に起きていたらどうなっただろう、と内心肝を冷やした出来事でした。
この間、エージェントのスタッフはホテル始め各方面への減員手配、予約キャンセルなど、忙しい思いをさせられたことは、言うまでもありません。

ツアー初日は、札幌市内観光です。
ホテルにお迎えに行く前、エージェントスタッフから「79歳のDさんが、今朝からめまいと吐き気を訴えているので、朝一番で病院にお連れする」との連絡がありました。
Dさんとは昼食のレストランで合流しましたが、取り敢えず病院から薬をもらってきたとのこと。でも、何となく彼の表情からは不安感が読み取れ、食事もあまり進まない様子です。
その後、彼自身疲れが溜まらないよう、長時間のウォーキングや夜の外出は控え、体調管理に気を配っていたようです。

ところが、ツアー8日目の帯広の夜8時半過ぎ、その日の夕食に参加しなかったDさんの弟Bさんから電話があり、「兄の吐き気が再発したので、病院に連れて行って欲しい」とのこと。
早速、ホテルのスタッフに教えてもらった、帯広市夜間急病センターにタクシーで向かいました。タクシーの中でも、強い吐き気の症状が続き、ビニール袋を用意していったのが幸いでした。

事前に電話で経過や病状について説明してこともあり、病院側ではすぐに診察してくれました。
お医者さんは、年配の感じの良い方で、Dさんから症状の詳細を聞き取り、その後座位のまま、それからベッドにあおむけになったDさんの頭と体をあちこちに傾け、診察します。

診断結果は、「良性頭位変換性めまい症」でした。
お医者さんの説明によれば、主症状はめまい。そして吐き気はその随伴症状。加齢に伴い誰でも発症する可能性のある病気ですが、良性かつ一過性(長くて2週間程度で治癒)のもの。
このめまいは、長時間同じ姿勢でいることが原因で起こると考えられていて、思い当たる人は、ときどき意識的に頭を動かして、予防、改善に努めるとよい、とのことでした。
因みにこの病気、英語ではBenign paroxysmal positional vertigo (BPPV)というそうです。

本人もこの説明に大いに納得し、かつ安心したようでした。
その後1時間かけて吐き気止めの点滴注射を受け、10日分の薬を処方してもらって、ホテルに戻りました。
一晩ゆっくり寝て、翌日はめまい及び吐き気から完全回復です。
午前中釧路に移動し、和商市場では楽しみにしていた勝手丼を美味しくいただくことができました。

ただ、午後の恩根内木道散策には、大事を取って参加せず、午後はホテルでゆっくり寛ぎました。
これですっかり元気を取り戻し、前夜食べられなかった夕食も、他のメンバーとともに楽しみました。

帯広の病院で、吐き気の薬を最初の病院の倍量にしてもらったこと手伝い、最終日までめまい・吐き気は再発しませんでした。
帯広での対応が奏功したことで、Dさんやご家族の方々からは感謝の言葉をいただき、ガイドとして何物にも代えがたい喜びを感じたことでした。

ツアー中には、必ず何かアクシデントが起きるものと予め想定し、その内容に応じてその都度最適な対応ができるよう準備することの大事さを、再確認したツアーでした。

(完)