日本は火山国である。世界の活火山の7%が日本にある。地下には4つの地殻があり、絶えず動き、衝突し火山活動を引き起こしてきた。そのおかげで、火山や火口湖の美しい景色と、火山の熱で生まれる温泉は人々に素晴らしい恩恵を与えてきた。日本人の喜びは、美しい風景の中で温泉に浸かる事である。川湯温泉もその中の一つであり、町の人から「ここは火口の中です」と言われて、周りを見渡すと確かにその通りである。山々に囲まれた一帯に硫黄山が君臨し、火口原、火口湖、温泉が一つになり、あたり一帯に硫黄臭が漂う。
この硫黄山を、先住民アイヌ民族が“裸の山”と呼んだのは当然だと思う。火口付近一帯は、草木は生えず山肌は火山礫に覆われ灰色一色である。噴気孔からはゴーッと音を立てて蒸気が噴き出て、周辺にはレモン色の硫黄結晶の塊が散在し、空気のすべてが硫黄臭となる。
硫黄山火口付近は、“裸の山“にしか見えないが、山裾からは色彩をまとった景色が広がる。火山ガスや強い酸性に耐えられる植物だけが生育できる場所になっている。まずは、ハイマツである。高い山地で横に這う習性があるハイマツは、標高150メートルのここでは直立し天を目指すように育っている。次は、エゾイソツツジの大群落が広がる。北海道だけに生育するこのツツジは春には「初恋」という花言葉の白い花を咲かせる。ハイマツ、エゾイソツツジ、そしてアカエゾマツが続き、温泉街にたどり着く。硫黄山から生まれたての温泉水が噴出するのが、川湯温泉である。
19世紀、日本の近代化とともに、この山で硫黄採掘が始まった。当時の日本ではマッチや火薬原料に硫黄が使われた。山には硫黄精錬所ができ、鉄道が敷設されるほどに、硫黄は大量輸送されて遠くの人々の生活と密接に結びついた。精錬所近くの川には、温泉が湧き、鉱山や工場に集まった労働者はそれに浸かり、疲れを癒した。また、湯治場として遠くから人々が集まるようになった。しかし、やがて硫黄は枯渇し、鉱山は閉鎖された。そして、温泉街だけが残り、現在へと続く。
川湯の温泉街には至る所で湯けむりが上がり、硫黄成分が空気中に漂っている。そのため、郵便局のATM機械は数年で故障するし、コンピューターやテレビも壊れやすく、住民は「一番安いモデルを買う」という。湯船に釘を入れたら数週間で溶けてしまったという話が今でも語られる。ATMを錆びさせ、釘を溶かす湯は「人間に害はないのか?」そう問うと、旅館の主人は、「硫黄成分は人間には異物。異物が触れると肌は拒絶反応を起こし軽微な熱を出す。体温が上昇し、免疫機能が上がり、結果として、人は健康になる!」と誇らしそうに答えた。
“裸の山“から続く植物たち、そして温泉街を含むこの一帯は、地球の息吹を伝える火山ミュージアムそのもの。火山の恩恵を受けた泉質は、住む人たちの自慢でもある。
*北海道運輸局事業として当社が作成を担当いたしました。