2020.09.04

藤澤さんの医療対応zoom研修 

「デカケルトキワ、ワスレズニ。」 もう〇十年も前にOAされた某クレジット会社のCMです。かの「帝王」ジャック・ニクラスの、たどたどしくもちょっとユーモラスなこのフレーズを覚えている方は、割と大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

お買い物、出張、週末のゴルフやドライブなど「お出かけ」の目的は様々ですが、私たち通訳ガイドには「お客様とのツアー」に他ならず、「ワスレズニ」の備えの中に「ツアー中に起こり得る傷病発生時に役立つ知識やノウハウ」が含まれていることも違いありません。

 

そこで、コロナの影響で図らずもできたこの期間を有効にと、去る8月22日(土)Zoom研修「旅行ガイド中の医療対応」が行われました。

講師はSEGの中でも、訪日外国人の受診・入院時や関連ニーズに関して現場経験のあるメンバーが担当。トピック毎に簡潔にまとめられたパワーポイントのスライドに沿って、話が展開していきます。
「こんな時、皆さんはまずどうしますか?」。講師が提示する実例のリアルさに受講者一同ぐっと引き込まれ、想像力を働かせながら「自分だったら…。」とシミュレーションする真剣な空気が、画面越しでも伝わるのを感じました。

お客様の体調不良の訴えや予期せず起きたケガの内容・程度も様々ですが、通訳ガイドはとりわけ事態発生段階で、当該のお客様個人の状態と全体のツアーグループの状況や行程を総合的・客観的に捉えながら、適宜対応に当たります。

ツアー中に医療的対応が必要と思われる状況は大まかに以下の三つに分けられます。

① 市販薬購入希望の場合:お客様のリクエストがあれば、できるだけ早めに最寄りの薬局/ドラッグストアに同行、薬剤師・登録販売者 とお客様と間の通訳として最適な薬選びのお手伝いをします。

② 受診希望、または必要と思われる場合:旅程中のタイミングによりますが、ツアーグループの移動先(宿泊先)のホテルや地元観光案 内所等から、お客様が受診可能な時間帯に掛かれる病院情報を入手し(予約あるいは受診の事前連絡、キャンセルの場合はその連絡も must)、受診時は医師、患者双方の通訳はもとより 日本での一般的な検査・診察の流れ、概算の医療費や支払い方法、診断書、領収 書、(念のためガイドもコピーを)のことなどもお伝えします。

 

③ 事故や体調急変(手術や入院)の場合:救急車の出動要請を含め、すみやかな救急病院への搬送が必要な状況です。傷病の発生状況・ 経緯に加え、患者であるお客様の個人情報(氏名、呼び名、生年月日、国籍、連絡先等)などもご本人やご家族の同意のもと、当該関 係機関へ代理で提供することもあります。団体ツアーの場合ガイドは初期対応が主でその後はツアー行程に戻ります。

上記に、もし個人的な事情(アレルギーや慢性症状・既往症の有無)が加われば、①で終わらず②が必要となることや、傷病の程度によっては③に手術・入院が必要となることもあり得ます。それらの可能性を念頭に置きつつ通訳ガイドは、同時にランドオペレーターやドライバー等ツアーの関係者や関係機関との「報・連・相」を密に行うことで、同じツアーグループのお客様や後続の行程への不安感やダメージを最小限にとどめる様務めます。

インバウンドの増加に伴い北海道でも外国人患者を受け入れる医療機関が増え、保健・、観光の所管省庁、地方自治体(北海道、札幌など)でも医療機関や受診にかかる情報・資料等を提供しており、これらへのアクセス情報はガイドにとって安心材料です。

研修後段では一般的な疾病名、痛みの表現、医師との会話想定問答、時宜を得たコロナ関連の表現等について双方向型の演習を行った他、受講メンバーによる示唆に富む経験の共有やまとめの質疑応答で、あっという間に2時間にわたる研修が終了しました。

日本、北海道への旅行で医療の介入が必要な状況に陥ったお客様やご家族にとっては、健康状態を損ねたのが「生活背景」「文化・習慣」「言葉」の異なる外国、しかも楽しみに申し込んだツアー中ということで、不安や心細さ、がっかりした気持ちが募るのも無理からぬことです。そのような中にあって、ツアー関係者や医療提供サイドと協力し、しっかりとコミュニケーションをとりながら状況の改善に頑張っている、そんな通訳ガイドの存在に、お客様やご家族の気持ちが少しでも和らぎ安心感を覚えていただけるなら幸甚です。

私達H-SEGのガイドは現在、ツアーの再開を心待ちにしながら、さまざまな分野の研修や自主課題に取り組んでいます。今回の研修は私たちにとって必要不可欠な一連の知識・ノウハウとして良い動機づけとなりましたが、今後ツアーが始まればきっと毎回「どうか、使わずに済みますように!」と願掛けもすることでしょう。

最後なりますが2018年3月の厚生省調べでは、インバウンドの海外旅行保険加入割合は73%、つまり23%が無保険で来日という事実も認識しました。冒頭のCMの時代を経て現在、クレジットカードには旅行保険が付帯したものも多くあると思いますが、今は未加入のお客様でも、来日後にインターネットで簡単に加入できる保険も存在します。
より多くのお客様が、お出かけの時は「備えあれば憂いなし」の状態で、明るくツアーにご参加なさることを心より願っています。