夏の終わりの、利尻島、鴛泊漁港。朝7時に、きれいな声の女性アナウンスが響き渡
る。「ノナ操業中の船は、時間ですので漁港にお戻りください。既定の大きさ以下のものは、海にお返しください。」後で調べると、ノナとはキタムラサキウニのことだそう。エゾバフンニ(ガンゼ)のシーズンが終わり、8月の終わりの今は、キタムラサキウニのシーズンだと、インターネットに紹介されていた。
まもなく、エンジン音を響かせて、小型の一人乗りボートが数隻、次々と港に帰って
きた。小型ボートは、到着すると、さっと、港の専用スロープに並んで陸揚げされ、漁師たちは取れたてのウニを、スコップでプラスチックのかごにすごいスピードで入れていく。みんな、かごに一ついっぱいになると、小型トラックに載せて、あっと言う間に港を離れていく。その間、約10分から15分。作業中の、優しい顔をした若い漁師さんに声をかけてみた。
「今日は大漁ですか?」
「いいや、全然。でも、一人で剥かなきゃならないか
ら、これでいいんだ。剥くの、大変だから。」
「朝は早くから漁に出ていたんですか?」
「漁は6時からって決まってるんだけど、自分の漁場に
は早くから行って6時まで待ってるんだ。」
ウニ漁は、朝のたった1時間で終わってしまうようだ
が、それぞれ、ここ、という漁場には、早くから行って準備をして、時間まで待っていると言う。それにしても、なんと欲のない、正直者の漁師さんたち。こうやって、この漁師さんたちによって、厳しくも豊な、美しい北の海が守られてきたんだ、と思い感動してしまった。
その若い漁師さんは、船着き場に足を投げ出して、なかなか帰ってこない夫の帰りを、
心配そうに待つおばあさんに、「元気かい?」と声をかけ、小型トラックで港を去って行った。
そういえば、前の日に泊まった、礼文島のホテルのご主人にも、面白いお話を伺った。
礼文島は、西海岸と東海岸で、全く気象が変わってしまうことがあり、西海岸で漁ができても、東海岸では海が荒れ、漁が中止になることがあるそう。
漁師さんたちは、皆、自分が一番になりたいのだけれど、西海岸の漁が中止になると、
東海岸の漁師さんたちも、たとえ天候が良くても、漁を休んでしまう。また、西海岸の漁師さんたちが、反対側の海岸に行って、漁をすることはない。逆もまた然り。それも、海の資源が枯渇しないように、漁師さんたちが守っている大切なポリシーなのでしょうか。
コロナの時代に、静かな北の島々を旅し、その
自然の美しさを再発見するだけではなく、たくましくも、優しい気持ちで生きている人たちに出会うことができました。フェリーが見えなくなるまで、一生懸命旗を振って見送ってくれた、港の前のホテルの従業員さんたちの姿も、決して忘れません。本当に、北海道はどこを訪ねても美しく、豊かな大地と海に恵まれていることを、感謝する毎日です。