2019.11.22

お客様がケガ!

先日、ハワイからのお客様をお迎えして、札幌市内のホテルに同宿していたその夜、そろそろシャワー浴びて寝ようかな、と思っていたら、ホテルのフロントから私に内線がありました。

「〇〇号室のお客様がお風呂場で転んで頭にお怪我されたそうで、ご同室の方がフロントにいらしています」
「えっ、大変!すぐにお部屋に伺います!ツアーリーダーさんにも知らせてください」
と、脱ぎ掛けていた洋服を着なおして、お部屋へ直行。その前に一瞬頭をよぎったのが、ここは札幌でもインバウンドの受け入れに力を入れている大型ホテル、ならば私に内線を入れる間に誰か駆け付けることはできないのか、もし一刻を争う状況だとしたら??ということでした。

もう一つ、海外からのグループのツアーリーダーさんは、あまり自分の部屋番号をお客様にお伝えしたがらない傾向がありますね。私は以前、日本の方を海外にお連れする添乗業務を長年やっていましたが、言葉が通じない外国で、緊急時に居場所がわからない、というのでは添乗員が同行する意味がない、と思っています。同室の方がフロントまで行かなくてはならないとしたら、ハワイから同行しているツアーリーダーに連絡できていない可能性が高いわけです。そんなこんなが頭をよぎりつつ、お客様のお部屋へ。

お客様は浴室ですべって転んで、バスタブの縁に額を打ったとのことで、おでこの中心に横4cmほどの裂傷があり、浴室のタオルで額を押さえておられましたが、椅子に腰かけておられ、普通に会話ができました。吐き気やめまいも無く「自分で歩ける」とのことで、タクシーで病院へ行くというご希望でしたが(そもそも本国では救急車を呼ぶと高額につくので、よほどのことでなければ利用する習慣がありません)、救急当番医に電話すると、頭部については専門医のほうが良いとの意見。それならばどちらの病院へ、と聞いたものの、「〇〇脳外科が本日の当番医ですが、診てもらえるかどうかはわかりません」との不安な返事。そちらに電話すれば案の上「急患が重なって、今は診られない」との回答。結局1軒ずつこちらで調べてあたってみるほかなさそうで、救急車を呼ぶ形になりました。ご経験のある方も多いと思いますが、救急隊員は近郊の病院のデータをすべて持っておりますし、直接交渉していただけるので受け入れ先も得られやすいのです。日本では軽い症状で救急車を呼ぶのが昨今よく問題になりますが、負傷した箇所が頭部であること、個別に電話を入れても時間がかかるばかりであることなどを考えると、救急車を呼ぶ選択は正しかったと考えます。いずれにしても、ご本人の意識が無い、お怪我の出血がひどい、嘔吐がある、立ち上がれない、といった状況であれば、迷わず救急車を呼ぶべきです。海外のお客様の場合、言葉の問題もあるので通訳がいないと受け入れてもらえないことも多いようです。今回も、言葉がわかる人がつくかどうかを、何度も聞かれているようでした。

市内に受け入れ先が確保でき、ご本人に同行して私も救急車に乗り込み、北区の脳外科へ。他に患者はおらず、担当医師がすぐに診てくれました。まずは負傷した部分をパチパチと金具で閉じる。(その間、お客様と手を握り合っていましたが、パチ、となるたび私の手が強く握られます。)それから、MRIへ。10分程度、頭部をスキャン。結果、「全く心配ありません」とのこと。「あ~良かった!」と一緒に胸をなでおろしました。

クレジットカードで40,000円弱をご自身でお支払いいただき、後日、旅行傷害保険の請求のために、英文の診断書の発行をお願いしたところ(別料金で3,000円程度)、お客様がホテル滞在中に届くように、すぐに作成して郵送してくださる、とのこと。

帰りのタクシーの車中、お客様は、救急車が無料で頼めること、待ち時間が無かったこと(今回はたまたま他に急患がなかったためですが)、保険がなくても診療や処置がそれほど高額ではないことなどに感心しておられました。「日本はすばらしい!」と。

お客様は60代初めの日系の女性で、とてもフレンドリー。曾祖母が広島のご出身ということで、日本のご苗字をお持ちです。あなたがいて心強かった、何の心配もなかった、夜遅くまで本当にありがとう、と何度もおっしゃってくださいました。

翌日から最終日まで、おでこの真ん中に絆創膏を貼ったまま「ぜんぜん痛まないわ」と笑顔でお元気に過ごされ、無事にご帰国されました。良かった、と思う一方で、もし現地ガイドがついていなかったら、どうなさっていただろうと思います。

今回は幸い何事もありませんでしたが、事態がもっと深刻だったなら?医療専門の通訳ではないにしろ、英語通訳案内士が同行していることで、初期段階での動きはかなりスムーズなはずで、リスクは大幅に軽減されるのではないでしょうか。もし手術や入院が伴う事態になれば、その後、医療通訳や専門機関の力を借りるという流れになると思います。

旅行中の怪我や急病など、外国人観光客が病院にかかるケースも増加していますが、病院でのコミュニケーションの難しさや、医療費の踏み倒しなど、医療現場における課題も多いようです。ご出発前の旅行保険への加入はもちろん、通訳案内士のお手配もどうぞお忘れなく、と現地の手配会社様に強く願います。