<北海道の酒造りの歴史>
北海道の酒造りは、意外にも江戸時代にはもう始まっていました。ただ、原料のコメは本州からの移入だったため生産量は少なく、人々はもっぱら本州産の日本酒を飲んでいたそうです。
1868年の明治維新とともに北海道開拓が始まり、全国各地の人々が北海道を目指します。そして石川県から渡ってきた柴田與次右衛門が、1872年札幌で造り酒屋を開いたのが、近代北海道の酒造りの始まりです。
原料となるコメの調達に依然問題はありましたが、北海道の冷涼な気候は日本酒の仕込みには最適で、20世紀初頭に蔵元の数は200を超えるまでになりました。
その後、時代の移り変わりとともに蔵元は企業合同により体力を付け、北海道の酒造りは1960年代後半に隆盛を極めます。更に、ビールなど洋酒の台頭や本州の酒造会社の攻勢に対抗する中で淘汰が進み、蔵元の数は現在12を数えるだけになりました。
しかし、生き残った蔵元はそれぞれ北海道ならではの特徴を生かし、大いに頑張っています。
そんな元気な造り酒屋さんのひとつが、小樽の田中酒造亀甲蔵です。
<亀甲蔵>
海外からの観光客に愛される観光都市、小樽。
定番スポットの小樽運河や堺町商店街のほど近くに、亀甲蔵はあります。
1905年築の木骨石造りの倉庫を改装した建物は、小樽市の歴史的建造物のひとつです。小樽には、最盛期に50以上の蔵元があったそうですが、2016年に2つの蔵元が身売りし、今では田中酒造が残るだけになりました。
日本酒の仕込み時期は、通常秋に収穫した新米を使って仕込む10月ですが、ここ亀甲蔵では季節に縛られない「四季醸造」がウリです。
また、原材料は100%道産酒造好適米の「彗星」で、しかも造るお酒はすべて純米酒、という品質の高さが自慢です。
私たち通訳ガイドは、お客様をよく亀甲蔵お連れしますが、その際嬉しいのは酒造りの工程を、スタッフの方が丁寧に説明してくれることです。
ワインと比較し数段複雑な製造過程が、お客様の胸にストンと落ちます。
すべての醸造工程がオールインワンの、コンパクトな設計の工場を一巡りして1階に降りると、そこは試飲コーナーです。
年中、搾りたての生原酒が試飲できるのが、ここの素晴らしいところです。
下戸やドライバーの方は、黒豆茶と酒粕饅頭をいただきしましょう。
ここでは古いたたずまいの建物を生かし、四季折々に特別のイベントが催されます。例えば3月ひな祭りの前後に飾られる、小樽に古くから伝わるお雛様が、目を楽しませてくれます。
<北海道の日本酒をもっと元気に!>
酒造りには、良い水が欠かせません。
だから、雪深い北海道といえども、酒造りの適地は限られます。
基本的に醸造に外部の水を必要としないワイン造りと、そこが根本的に異なる点です。
北海道では、特にここ10年くらいの間に、ワイナリーの数が急速に増加しています。今や全道のワイナリー数は30以上(2020年現在)に上り、地球温暖化進行とともに醸造用ブドウ生産の適地として、北海道がにわかに注目を集めている中、この傾向に今後ますます拍車がかかることでしょう。
このこと自体大いに喜ぶべきことですが、他方日本の伝統文化の粋である日本酒には、ワインやウィスキー・ビールなど洋酒の人気に負けないよう、これまでにも増して頑張ってもらいたいと思います。 <椎谷 泰世 記>
参考:
北海道の日本酒の歴史
https://recipe-book.ubiregi.com/articles/hokkaido-nihonshu/
https://www.nipponseishu.co.jp/history/
田中酒造亀甲蔵
https://tanakashuzo.com/
https://tripnote.jp/otaru/tanakashuzo-kikkogura
北海道のワイナリー一覧
https://japanwinery.guruguru.com/area/Hokkaido
Special Guide Book「余市・二木ワインツールズムプロジェクト」余市町農林水産課