札幌市中心部から南へ車で一時間ほど行くと、葡萄畑の傍らに現代アイヌアートの発信
地の一つ八剣山ギャラリーがある。日本の先住民族であるアイヌ民族伝統の木彫や刺繍な
どは昔から技術や芸術性で高い評価を得てきた。その伝統は現代アイヌアートにどのように息づいているのだろうか。
八剣山ギャラリーではアイヌの版画家、ミ
ュージシャン、詩人、複数の顔をもつ結城幸
司さんの版画が、地元の陶芸家の作品と共に展示されている。今日はアイヌの民族楽器ト
ンコリとフィンランドの民族楽器カンテレ
kanteleの演奏と創作語りを展開するユニッ
ト「ポロ」のミニコンサートがこのギャラリ
ーで行われる。
八つの剣がつきささったような形の山が
八剣山で、その麓にある八剣山ワイナリー
の敷地内に八剣山ギャラリーがある。
ギャラリーからは八剣山はもちろん360度
自然を見渡すことができる。
結城さんの版画は熊がモティーフの作品が
多い。熊はアイヌ民族にとってカムイ、神
様だという。2001年に結城さんは「アイヌ
アートプロジェクト」というグループを結
成して、音楽活動を続けてきた。2011年に
は、ノーベル文学賞受賞者の小説家ル・ク
レジオの招待を受け、ルーブル美術館で行
われたイベントで、そのメンバーと共にス
トーリーテリングを披露した。
今日のコンサートではトンコリ、カンテ
レの独奏、合奏があり、さらに合奏を背景に結城さんが自身の創作ユカラを語った。熊の子供が人間のお母さんに育てられる話を自ら語る内容だ。
八剣山ギャラリーの隣にはレストランと売
店があり、地元食材にこだわった料理を楽しむことができるし、ワインも購入できる。敷地内にはブドウ畑やビオトープを巡る散策路もあり、まさに自然の中で現代アートを堪能できる。
結城さんはアイヌの伝統について次のように話している。アイヌは自然をカムイと呼
び、常に神々に囲まれているという感覚を持っておりその感覚こそが素晴らしく、伝統として残したいものだという。
この版画のタイトルはKEHAI(気配)。
何だかいろいろな動物が潜んでいるように
見える。この作品が描いている北海道の自
然を、自分の足で歩いて、何かを感じたい
ものだ。そしてそれをガイドとして伝えて
いる未来の自分を想像してみた。すると
「夢ばかりみていないで、早く森に来なさい!」という声がこの作品から聞こえてき
たような気配がした。
森若 裕子 記