インセンティヴツアーでは、想定外の出来事がよく起きます。想定外の出来事が起きるのが想定内と言った方がよいかもしれません。私はいつも中華圏からのお客様をガイドしていますが、実に不思議な行動をとるお客様が少なくありません。ある事態の発生に困惑し、それをクリアーして安堵する、その繰り返しのうちにツアーが進んでいきます。困惑と安堵の経験を2つ紹介しますので、皆さんもドキドキしながらご覧ください。
①バスがどこに着くのかわからないのにお客様の一部がバス乗場へ行ってしまったケース
お客様が異なる地域から別々の飛行機で到着する場合、複数のガイドや旅行会社の方々が協力して、出迎えからバスに乗せるまでの仕事をします。新千歳空港で中国からのインセンティヴツアー(バス5台口)の出迎え時に、スタッフ一同大困惑という事態がありました。その日、私は国際線ターミナル、国内線JAL到着口、ANA到着口を駆けずり回っていました。飛行機が予定より遅く着いたため、別の飛行機のお客様の出迎えに間に合わなくなりました。幸い、旅行会社のスタッフが既に対応していたので、ほっとしました。
ところが、人数がそろっていません。一緒に乗っていらしたお客様に聞くと「数名が1番へ行った。」と言います。1番?トイレのこと!?でもいつまで経っても戻って来ません。確認するとバスの1番乗場だというのです。バスはどの位置に着くかまだ決まっていないのに、グループから離れて、どうやって自分のバスを探すのでしょう?冬の北海道の夜は早く、外はもう真っ暗です。お腹の空いているお客さんも多く、とりあえず先にキロロへ出発することになりました。消えてしまったお客様は、旅行会社のスタッフが次のバスに乗せるということで、私は気がかりを抱えたままバスに乗りました。しばらくして、グループのメンバ―にWe chatで連絡が入り、1番乗場へ行ったお客様も無事に次のバスで出発できたのでした。なぜ、一番乗場に行ったのかはわからなかったが、とりあえず安堵の瞬間が訪れました。
②ベジタリアンメニューを予約外のお客様が食べてしまったケース
台湾を中心とした中華圏からのお客様をビール園にご案内した時のことです。ジンギスカンを食べないお客様は、事前にベジタリアンメニューを予約していました。3台のバスからお客様がビール園に流れ込むなか、ベジタリアンのお客様をいち早く見つけて座席に案内しようと奮闘した結果、座席がうまったのでほっとしました。
ところが、「ベジタリアンメニューを予約したのだけど、どこかしら?」という妙齢の女性客が現れました。まだ配膳されていないのだと思い、ウェイターさんにお願いすると「それはあそこの席のお客様が召し上がっています。」普通メニューで予約していたお客様が勝手にベジメニューを食べていたのです。困惑度は頂点に向かって急上昇です。ベジメニューと普通メニューの違いは一目瞭然なのに…なぜ?ウェイターさんに普通メニューをベジタリアンフードに替えてもらうようにお願いしてみたが、もう間に合わないとのこと。お客様に事情を説明して謝っているところに、再びウェイターさんが現れ、少し時間がかかるが用意できるという嬉しい知らせを持ってきてくれました。お客様を飢え死にさせずにすみ、安堵した瞬間でした。
いずれのケースも、ガイドとしては何らかの工夫をすれば困惑の事態を避けられたのではという反省はあります。それでも、平静を装い笑顔を保ち、周りの協力を得ることで、困惑を安堵に変えることができることを、これからも自分に言い聞かせていきたいと思います。