2019.11.24

お客様から学ぶこと

バスツアーで前方に座る方は、ガイドの話にとても積極的に耳を傾けて下さることが多く、ハワイからの団体ツアーで最前列に座っていたお二人も好奇心旺盛なご夫婦でした。

マリモを見に行く阿寒湖遊覧船で、ふと気が付くと奥様の姿だけが見当たりません。船内を探すと、殆ど人がいない1階で珍しく一人で座っている後ろ姿を発見。どうやら旦那様もその他の皆さん同様、見晴らしの良い2階に行ってしまったとのこと。そこでチュウルイ島までの20分弱、隣に座り、お喋りに花を咲かせました。バス内での多く発せられる質問からも、この方の聡明さは承知していたが、改めてじっくりお話を伺うと、ツアーの行程先に関して、本やインターネットで事前に詳しく情報収集していることが伝わってきました。

実はこの女性、手足が不自由で、特に膝が曲がらない為、バス乗降等の段差移動は毎回、大変な労力を要します。それを献身的に支えている旦那様。彼女は勿論、夫にとても感謝していますが、それと同時に、夫の世界を広げたのは自分だという自負をお持ちです。元々は内向的な性格だった彼が、社交的で好奇心旺盛な彼女との生活の中で、どんどん触発され、今ではすっかり彼自身が新しい世界を楽しむようになったのよ、と満面の笑み。

そんな話をしていたら、あっという間にチュウルイ島へ到着しました。しかしチュウルイ島での滞在時間が短い為、彼女はマリモ展示観察センターへの移動を諦め、船着き場で旦那様を待っていると仰います。そこで船員さんに出発時間までの間、彼女のことを少し気に留めて頂けるよう依頼すると、『車椅子ならあるよ。せっかくここまで来たのだからマリモ見ておいで。』との助け舟。大喜びする彼女を乗せた車椅子を快く、そして力強く押して下さり、一足先にマリモ展示観察センターで見学していた旦那様に無事バトンタッチ。めでたくご夫婦で本物のマリモをご覧頂くことが叶いました。

また、ある温泉ホテルに連泊した時は、部屋風呂の段差が高い為、旦那さんが奥さんを一人で抱えて入れることは危険すぎるとのことで連絡を受けました。早速、別タイプの部屋に交換できないか交渉しましたが、あいにく満室で不可能なことが判明。そこで大浴場の洗い場のシャワーをご提案しましたが、日本の温泉が初めての彼女。やはり一人では相当不安な表情。混浴ではない為、当然、旦那さんのサポートは得られません。となると、ここは私が一肌脱ぐしかない!そこで、『もし私で良ければ一緒にお風呂行きますよ』とご提案したのはいいけれど・・・私も裸になった方がいいのか?万が一、滑りやすい風呂場で転んだりした場合の事を想定すると、着衣のままの方がいい気もしますが、他のお客さんは服着た人が風呂場にいたら、嫌がるだろうし・・・と、様々な疑問が一瞬頭をよぎります。そんな迷いを口にすると、ホテルの方々から、近くの施設から湯あみ着を借りられるかもしれないとの情報を得ました。早速、一着準備して頂くお願いして、お客様とは夕食後、時間を決めて同行する約束をしました。

ところが夕食時、その話をご夫妻から聞いた他の女性陣数名が、自分達が彼女をお風呂に連れて行くから大丈夫とのこと。チェックインから夕食までの間に温泉デビューを果たし、すっかりここの温泉が気に入った彼女達。元々、夕食後にもう一度温泉に行くつもりだったそうです。そんな皆さんの協力もあり、遂に温泉デビューを果たした奥様も相当嬉しかったご様子でした。そして裸同士の付き合いとなった彼女達の関係が、より深くなったように感じたのは決して気のせいではなかったと思います。

日本では、たとえ家族であっても迷惑を掛けたくないという遠慮から、何かと我慢することが多くあるのではと思いますが、願いを言葉にして伝えることで、周りから知恵や助けを得られ、また介助する側にとっても、とても嬉しく優しい気持ちになるということを、彼らの自然体の姿勢から学んだツアーとなりました。